食べることと出すこと (シリーズ ケアをひらく)









潰瘍性大腸炎にかかった人の心境を綴った本を読みました。序盤はもっぱら下痢の話なので食事中に読むとなんともいえない気持ちになるかもしれません。


潰瘍性大腸炎は安倍晋三前総理も患っている難病で、一生治らない病気です。食事にはかなり気を遣わないといけないし、細心の注意を払っていてもいつ強烈な便意に襲われるかもわからないという、想像するだに恐ろしい病。しかも、なぜ発症するのかもわからないのだから防ぎようがありません。僕もあなたも明日突然発症するかもしれないのです。

食事はどれくらい気を遣わないといけないかというと「高タンパク、高ミネラル、高ビタミン、高カロリー、低脂肪、低残渣」のものという基本方針があるそうです。高カロリーで低脂肪のもの、という時点でかなり限られます。乳製品は全部NG。果物なんか高ミネラル・高ビタミン・高カロリー・低脂肪で最高っぽいんですが、繊維質が多いので「低残渣」に引っかかります。要するに「食べられるものがほとんどない」ということです。

食べられるものがほとんどないということは、人と会食をすることが限りなく不可能に近いということです。コロナで会食を避けないといけない昨今ではそこまで不便をきたさないかもしれませんが、それでも得しているということは何もないでしょう。

さらにいつ下痢を伴う便意に襲われるかわからないとなれば外出も怖いということで、筆者はとにかく想像を絶する大変な思いをしています。
そしてその「大変さ」を、色々な角度から吐露します。食事がとれない大変さ。腹痛の大変さ。外出ができない大変さ。その大変さをわかってもらえない大変さ。そこからくる孤独の大変さ。

こう書くと愚痴のオンパレードみたいで何が楽しくて読むのかと思われるかもしれませんが、筆者が引用する他の本や芝居の表現による代弁も含めて「世の中にはこういう大変さがあるのか」という理解というか知識が深まります。決してその辛さ・大変さを理解することはできないのですが、「そういうものがある」という理解。

また、そういう苦境に陥った人の心情を開陳されることで、本人の立場というものを少しだけ理解し、どう寄り添うのが望ましいのかという参考にもなります。

家族や友人が病気になった時により良く相手に寄り添うために、あるいは自身が病気に冒されている時に「ああ、自分の辛さはこれだわ」とちょっとした仲間意識を持つために、この本を開いてみるのも良いかもしれません。








おまけ
読むきっかけは麻木久仁子さんのレビュー。さすがというまとめ方です。こちらも是非。