父に面白いと勧められてバンクーバーへの移動中に読んだ本。すごく面白くて一気読みしてしまいました。著者は「下町ロケット」で直木賞をとった池井戸潤さんで、この「空飛ぶタイヤ」でも直木賞候補となっています。

主人公は赤松徳郎は赤松運送という運送会社の社長。物語は赤松運送の社員が運転するトラックがタイヤ脱落事故を起こし、死傷者を出してしまうところから始まります。トラックメーカーの調査により事故原因は「整備不良」とされ、赤松は警察から容疑者として追求されます。家宅捜索を受け、大口取引先を失い、銀行からは融資を断られと散々な目にあいますが、赤松はこの「整備不良」という原因に納得がいかず、メーカーであるホープ自動車に戦いを挑んでいきます。そして少しずつ、ホープ自動車に巣食う腐った部分が浮き彫りにされていくのですが、赤松運送は資金繰りに苦しみ、、、というお話。

読み始めればすぐに三菱のリコール隠しを題材にした話なのだなと気付き、なんとなく結末は予想できるものの、登場人物の心理描写にグイグイと引き込まれていきました。この物語の主人公は間違いなく赤松徳郎社長なのですが、その赤松と対峙するホープ自動車の沢田や刑事の高幡、ホープ自動車に融資を求められるメインバンクの井崎など、それぞれの立場・視点での考え方や行動が丁寧に描写されているところが物語に厚みを増しています。ホープ自動車の人たちのお役所根性というか消費者をなめきった態度ってのがまた腹立つんですよねー。文中では「財閥だから」という表現でその態度に理由付けをされているんですが、結構多くの大手企業の社員さんにこういう方が見受けられるんじゃないかなあと。東京電力然り、企業ではないけど大阪市役所の職員然り。そういう会社・組織に未来はないよね、と思わせられます。

話はずれますが、こういう「それぞれの立場からの視点」で形成されている物語、結構好きです。実世界でもそうですが、他人の「バカなんじゃないのか」と理解に苦しむ言動にもその人なりの理屈であったり正義であったりがあるんですよね。それが正しいかどうかは別として、そういう背景があることを理解なり推測なりすることが自分の精神衛生上にもよろしいんじゃないかと思ったりする次第。まあ、何も考えていないということもあるわけですが。
このような複数の立場からの視点で語られる物語を「群像劇」と呼び、個人的には北方謙三の水滸伝が群像劇としてものすごく高いレベルで出来上がっていてめちゃくちゃ面白いと思うので、こちらも興味あれば是非。全18巻と異常に長いんですけど、量に圧倒されないで読み始めるとスラスラ読めます。「でも、さすがに18冊はちょっと、、、」という方は、楊家将というのが上下巻であり、これまたよくできた群像劇ですのでオススメです。騙されたと思って読んでみて!

ということで話がずれまくりましたが「空飛ぶタイヤ」、自分の身の回りに置き換えながら読んでも結構面白いと思いました、オススメです。文庫で上下巻てのも手をつけやすくてよろしいですねw

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)
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講談社


空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)
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講談社


水滸伝完結BOX (集英社文庫)
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集英社


楊家将〈上〉 (PHP文庫)
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PHP研究所