気まぐれ思いつき日記

会社員→妻の海外赴任に伴い主夫(5年)→会社員兼フリーライター兼主夫。 生き物とデジタルガジェットと食べることをこよなく愛し、最近は筋トレとキャンプにご執心な40代。

カテゴリ: 本の感想



写真家の幡野広志さんの、写真を撮る心構えを説いた本。心構えなので、技術的なことはほとんど触れられていないんだけど、一般的に「上手に写真を撮るためのテクニック」とされるもの(例えば三分割法)を「そんなの現場では使ってないし、気にしなくていい、もっと気にするべきものはある」とぶった斬ってるのはなかなかに痛快かつ興味深いです。

好きでいつも読んでいた幡野さんのコラム「なんで僕に聞くんだろう。」の文体そのままで、淡々と、でもちょっとフレンドリーな雰囲気が全体から醸し出されています。だから本当に写真のテクニック本とかそういうのではまったくないんですよね。

で、ばっさり斬り捨てられた三分割法。僕自身、時々気にして撮ってたので「お、おう、そうですか、、、」となってしまいましたw 別に三分割法を使うのが悪い、という話でもないし、僕もそれに囚われてるわけでもないからいいんですけど。

それよりも、「光の状態(差してる方向や明るさ、色など)を最優先にして、背景は二の次」とか「写真はトリミングする(切り出す)もの」など、今までの価値観と違う考え方を提示されて、腹落ちもありとても勉強になりました。光の状態を気にしてこなかったわけではないけど、もっと気にしようと思います。トリミングも、もちろんあとですることはあるんだけど、トリミング前提で撮ったことはあまりなかったなと。今度からそれを前提に少し引いて撮ってみようと思います。

あと、現像の際に写真に粒子感を加える、というもの。これは僕の中で「粒子感は無くすもの」という認識が強かったのでびっくりしました。過去に撮った写真をやってみました。これ、ブログに表示するレベルだと正直違いはまったくわからんのですけど、大画面で表示するとたしかに「いい感じ」になるな、と思いました。プリントするときっとはっきり違うんでしょうね。
カメラで撮ったRAWファイルは外付けHDDに保存してるけど(これもそろそろバックアップを取らないと危険だな)、基本的にはGoogle Photoで満足してしまっているので、「これは」というもの以外はそこまでしなくて良いかなー。

一眼レフは重たくて使ってないので手放しちゃったので手元のカメラらしいカメラはSONYのRX100っていうコンデジ(でも強いんですよ)だけで、それすら最近はあまり使ってなくてスマホで撮ることが多くなってしまってるんですけど、またもっと使おう、という気持ちになりました。写真を楽しもう。





2024年最初に読んだ本。この本は「事前の信念に基づく意見は、事実(データ)をどれだけ提示しても変えることはできない。では何をもって意見を変えせしむるのか。」という話。こういう本、大好きなんですよね。

例えば、ワクチンの効用について。SNSをやってる人なら見たことがある方が多いと思いますが、世の中には反ワクチン派の方々というのが一定数いらっしゃいます。彼らに研究論文だったりワクチンが現れてからのその病気の死者数だったりをどれだけ言葉を尽くして説いても、彼らが「なるほど、目が覚めました!自分もワクチンを打とうと思います!」とはならないですよね。むしろ余計に意固地になり、(多くは信憑性が極めて怪しい)データを持ってきて反論をしてきます。

これは彼らがバカだからではなく、世間一般に「賢い」とされる人でも起きる問題だと作者は訴えます。むしろ賢い人こそ情報を歪めがちだとも。

ここまでがこの本の言ってみれば導入部分で、意見を変えさせるためには「事実」以外のものの力を使おう、というのがメイン部分です。事実以外の何を使うかというと、「感情」「インセンティブ」「主体性」「好奇心」「心の状態」「他人」を使うのが良いと、実例をあげて説明されています。

本の中で紹介されているインセンティブの例をあげてみましょう。
ある病院では手術の前の手洗い・消毒を励行している(あたりまえ!)にも関わらず、なかなか遵守率が上がりませんでした。監視カメラとかつけてもダメ。ところが、電光掲示板を設置して誰かが手を洗うたびに遵守率の数字が上がっていくのを見られるようにすると、スタッフの達成感が刺激されて90%まで上がりました。(それでも10%の人が洗わないのどうなのw)

つまり、「達成感」というインセンティブを与えることで「手を洗わなくても別に良い」と思ってる人をある種「説得(=意見を変えさせる)」ことができたわけですね。

本の中では上述のように色々な方法での意見(引いては行動)を変えさせる手段が紹介されています。手元に置いておいて、説得がうまくいかないときにどうしたら良いかを考えるのに使いたいですね。でも悪用は厳禁!

悪口:他を悪く言うこと。人をあしざまに言うこと。またそのことば。あっこう。(小学館 日本国語大辞典)

世間一般的な常識として、人の悪口を言うことは良いことではありません。僕も日頃つい「バカだから」と言ったり書いたりしてしまいますが、品がないですよね。知性を感じない。どうせ悪口を言うなら知性を感じさせるものがよろしい。そこにユーモアがあればなお良い。そんな反省からこの本を手に取りました。

嘘です、田中泰延さんがツイッターでリツイートしてて面白そうだったからってだけです。

まあ内容は「バカにただ『バカ』って言ってもつまんないから、もっと賢そうでできればクスッと笑える悪口言おうぜ!」という上述したまんまの内容なんですけどね。


具体的にどんな悪口が並べられているのか、少しだけご紹介いたします。

・植物だったらゲノム解析されてる
これは「シロイヌナズナ」という植物は全ゲノム配列(DNAの並び)が解読されていることにかけています。それがなぜ悪口かというと、例えばコムギなどの役に立つ植物のゲノムを解析するとそれによって大きなお金が動く可能性があってあまり都合がよろしくないので、なんの役にも立たない、毒にも薬にもならない植物としてシロイヌナズナが解析対象として選定されたのです。
なので無能の役立たずな方がいらしたら「植物だったらゲノム解析されちゃいますね!」とお伝えすると良いかもしれません。


・ヴァレンヌ逃亡事件じゃないんだから
「ヴァレンヌ逃亡事件」とは、ルイ16世とマリー・アントワネットがパリから逃亡した事件のことです。ただ計画は杜撰な上にめちゃくちゃチンタラしてたので全てが遅れに遅れて逃げ損ねています。逃亡できてない。この教養悪口本の著者も「人類で最も逃亡に向いてない夫婦」と表現しています。
これを揶揄して「ヴァレンヌ逃亡事件じゃないんだから」というと「どんだけ遅れてんだよ」と言う意味になります。個人的には「ルイ16世(マリー・アントワネット)っぽいね!」という使い方を提唱したいなと思いました。
余談ですが、ヴァレンヌ逃亡事件、本になってるのね。読んでみよ。


・オイフォーリオンが飛んだ!
オイフォーリオンはかの詩人ゲーテの名作「ファウスト」の登場人物で、何をとち狂ったか「空を飛ぶ」と言い出し、両親の制止を振り切って崖から飛び降りて(当然)死ぬ青年です。転じて「両親の制止を振り切って大学をやめてインフルエンサーを目指す人」を指します。ツイッターでよく見るよね、そういう人。うちの子もオイフォーリオンになっちゃわないか心配。
ところでファウスト読んでないから知らないんですけど、オイフォーリオンに何があったんでしょうか。


とまあほんの一部をざっくり紹介しましたが、他にも知性ほとばしる悪口とそれが悪口となる背景がたくさん出てきます。ここで学んだ悪口を実際に使うかはさておき、ちょっとした豆知識として読んでも面白いのでおすすめです。

え?知的だろうが悪口は悪口だろうって?
「道徳貯金が赤字なんじゃないかな、家で人種差別とかしてない?大丈夫?」


教養(インテリ)悪口本
堀元 見
光文社
2021-12-21

子供の頃、ボロボロになるまで何度も何度も読み返した本がありました。それが学研のひみつシリーズ。

特に好きだったのは「びっくり世界一 自然のひみつ」。この本に出ている「世界一」の数々をいつかこの目で見たいと思っていました。
その中の1つ、「世界一大きい木」であるセコイアの木を大人になって見た時は、その大きさもさることながら30年越しの夢が叶って感無量でした。
IMG_0743
「御神木」サイズの木がそこら中に生えてるセコイア国立公園

ひみつシリーズは僕を理系の道に導いてくれた本で、もっとこういう本がたくさんあれば良いのになと思っていたところ、先日何かで見かけて早速手配した本がまさにその代わりになるもので、めちゃくちゃ面白いのでご紹介。

その名も「信じられない現実の大図鑑」

「信じられない現実」の図鑑ってなんか陰謀論がたくさん出てきそうですが、そういうのじゃないです。ちゃんと科学的に証明された事実が記載されています。

中身全部面白いですが、中でも個人的に特に好きだった2ページをご紹介。


◎最大の恒星の大きさは23億km
star

直径23億kmってやばくない!?
光の速さが秒速30万km、時速に直すと10.8億km。つまり、光の速さで真ん中突っ切っても端から端まで2時間ちょっとかかるし、表面に沿って行ったら3時間20分かかります。ちなみに地球から太陽までが光速で約8分。

木星の公転半径が7.8億km、土星の公転半径が14億kmなので、太陽と同じ位置にこのはくちょう座V1489星があった場合には木星までは悠々と飲み込んでしまいます。すげえ。


続いてこちら。

◎スカイダイビングの最高到達地点は3万9000m
sky

意味がわからない。いやわかるけど。
旅客機の巡航高度がおよそ1万mなのでその4倍。「降下中に時速1,358kmの速度に到達、乗り物に乗らずに音速の壁を破った最初の人間」となったそうです。音速は時速1,225kmなので、マッハ1.1を叩き出したということですね。ソニックブームは出たのかしら。

ちなみに、人工衛星などを地球周回軌道に乗せるための必要速度(第一宇宙速度)は時速28,440km、地球の引力を振り切る必要速度(第二宇宙速度)は時速40,300kmなので、改めてロケットってすげえなって思います。

そんで、「最初の人間」と書いてあるということは他にも乗り物に乗らず(生身だとブラックアウトしてしまうので与圧スーツは着ている)にマッハを超えた人はいるのかというと、さすがにそこまで書いてないので調べてみたけどよくわかりませんでした。(上に色々書いたことも考察のために自分で調べて書いてます、なんでもかんでも図鑑に載ってると思うなよ!)


とまあ、「え、まじ!?」という「信じられない現実」がたくさん載っていて、大人でも(それなりに好奇心があれば)すごく面白い本です。上述のように読んで浮かんだ疑問を調べることでさらに知識が広がるのでオススメです。特にお子さんがいるご家庭で「ひみつシリーズ」と共に育ったお父さんお母さん、「あー、知ってるー、これ昔読んだ!」ってなること請け合いです。

久しぶりに「感動する本」に出会いました。キリン解剖記。なんでこれを読もうと思ったのか忘れましたが、おそらくどこかで誰かが推薦していて面白そうと思ったのでしょう。

キリン解剖記
郡司芽久
ナツメ社
2020-08-21


どんな本かというとタイトルのまんま「キリンを解剖する話」です。

なぜキリンの研究者を志したのかに始まり、突然訪れる初めてのキリンの解剖と失敗、その反省を活かした二回目の解剖、研究対象(キリンの何を研究するか)の模索、そして研究の過程、仮説の検証。一つのドキュメンタリーとして完璧な作品に仕上がっています。

もう少し詳しい内容については阪大の仲野教授のレビューがわかりやすいのでそちらをどうぞ。

「THE 理系」を思わせるタイトルですし内容ではありますが、文体は研究者らしくない(?)ライトな語り口で、読んでいて頭が疲れることもなく、強いて表現すれば「知的なブログ」のような感覚で、理系科目が苦手な人でも気軽に読めます。

当然ながらキリンに関する日頃なかなか知ることのない知識もたくさん出てきます。個人的に「おおーー!」となったのはキリンの項靭帯(こうじんたい)について。

項靭帯の「項」はうなじのことで、つまり首の後ろ側の靭帯のことです。キリンが長い首を上げたままでも首が疲れないのは強い項靭帯を持っていて、あえて首を下げようとしなければ重力に逆らって自然と上げた状態をキープできるのだそうです。

興味深いのはキリンが死んでしまって横倒しになったとき、逆らう相手である重力がなくなるため、首がグリンと後ろに反ってしまうということ。そしてこれは始祖鳥の化石で首が寝違えたみたいに後ろに反っているのと同じ理由なんだそうです。そういえば始祖鳥の化石、みんな首がとんでもなく反ってる!


時々挟まれるコラムも面白いです。僕が特に感銘を受けたのは「キリン研究者の育て方」といういちばん最後のコラム。

作者のお母さんは専業主婦ながらなかなかにファンキーなお母さんなのですが、彼女の生きる姿勢を見て自然と研究者としての基盤が築かれていることに感動を覚えました。以下、一部引用。

母は、私に対して「勉強しなさい」と言ったことは一度もない。ただ、母自身が学問に励むことで、学問の素晴らしさを身をもって示し続けてくれた。私が研究者として生きていく上で一番大事な基盤を作ってくれたのは、間違いなく母だと思っている。

こんなの読むと果たして僕は娘に父親として何か彼女の将来の糧となるものを見せてあげられているのだろうかとやや不安になります。まあきっと何かしら僕自身が気づいてない良いところを見出してくれていることでしょう(と無責任に前向きに思うことにしておきます)。

他にも読んでて思うこと、考えることはたくさんあるのですが(博物館の「3つの無」の理念とかすごく興味深いです、これだけでずっと語っていられる)、本筋から外れて長くなるのでこの辺で。今のところ今年読んだ本でいちばん面白かったです。「感動する本なの?」と聞かれると「人による、僕はした」としか言えないのですが、面白いことは間違いないです。オススメ!

キリン解剖記
郡司芽久
ナツメ社
2020-08-21

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